スポーツと腹痛

2008年7月「e-resident」掲載~NHK「解体新ショー

―解体新ショーに出演

先日、NHKの「解体新ショー」の収録に行ってきました。解体新ショーは、カラダの数々の謎を科学的に解き明かす番組です。出演するお笑い芸人の方たちのトークや演技も楽しく、いつも「なるほど、そーなんだ」と感心しながら見ていましたが、今回は私がお手伝いすることになりました。

私に与えられたテーマは、「走るとどうしておなかが痛くなるの?」です。

おそらく誰もが経験のある、走るとおこる脇腹の痛み、これを「side stitch」といいますが、この原因に関しては諸説があるもののよくわかってはいませんでした。運動に伴う腸管の虚血、胃内容物の排泄遅延、腸管がぶつかり合うことによる機械的な刺激、呼吸筋の血流や酸素供給不足、腹腔内圧の上昇、腸管内ガスの結腸彎曲部への移動、胆道内圧の上昇などが原因と推測されていますが、おそらくそれら複数の因子がかかわりあっているのだろうと思われます。疫学的には、「運動を休むと消失する」「同じ運動でもランニングに多く、自転車や水泳などでは少ない」「子供のころにはよく起きるが、大人になるとなくなる」などの事実が明らかになっています。

今回の「解体新ショー」では、いくつかの実験を行い、その原因の一つが明らかになりました。 滋賀医科大学の谷徹教授が開放式MRIを用いて、走ることにより結腸の脾湾曲部や肝湾曲部に大量のガスがたまることをリアルタイムに確認してくださったのです。私も、ランニングで小腸や大腸が大きく揺さぶられることを確かめました。運動時には腸の蠕動運動が抑制されますから、揺さぶられることとあいまって、結腸内に分散していたガスが湾曲部に集まることが推測できます。それが痛みの原因というわけです。  確かにそう考えると、「運動を休むと消失する」(蠕動運動の再開によってガスが分散)「同じ運動でもランニングに多く、自転車や水泳などでは少ない」(腸が揺さぶられることと関係する)「子供のころにはよく起きるが、大人になるとなくなる」(自律神経機能の未発達な子供で起こりやすい)、という疫学的事実の理由も説明できます。番組でも、ペナルティのお二人が模型を使って上手にそこのところを説明してくれました。打ち合わせでちょっと話を聞いただけで、すぐにポイントをつかんで表現しちゃうんだからスゴイ。さすがプロ、と思いました。僕にはそこらへんの修行がまだ必要だなぁ。

―運動時に起こる腹痛

これはトップアスリートでもしばしば起こり、いろいろな相談をうけることがあります。今までの運動時の消化器症状を検討した報告では、胸やけ・吐き気・嘔吐などの上部消化管症状が10~30%程度、下痢・排便衝動・下血などの下部消化器症状が10~40%程度見られるとされています。時々、マラソンレース中にコースを外れて民家でトイレを済ませてからコースに戻って、それでも優勝しちゃったりする選手がいますが、これもまさしくマラソン時に起こる腹部症状です。  このような腹部症状で悩む選手たちは、各々が独自な工夫をしています。食事の内容や食べる時間など、それぞれの選手の消化機能や運動の質が違うので、一概に指導はできません。いろいろ試しながら克服しているといったところでしょうか。時には、整腸剤や制酸剤、抗コリン剤の力を借りることもあります。 「走るとどうしておなかが痛くなるか」なんて、運動やめればよくなっちゃうわけだし、命にかかわるわけでもないし、医学的には大した問題じゃあないのかもしれないけれど、スポーツを普及させるには大事なテーマかもしれません。走るたびにおなかが痛くなってしまえば、みんな走ることをやめてしまいます。今回はきちんとした研究プロトコールも存在しない実験だったけれど、きちんとした研究を行う価値はあるかもしれないなあ、と感じました。  これだけ「健康スポーツ」が叫ばれて、国民の運動不足が指摘されているわけだから、「どうしたらみんながスポーツを好きになるのか、体を動かすことが億劫じゃあなくなるのか」というテーマはきっと大事ですね。  まだまだやらなければいけないテーマがたくさんあります。  それにしても、共演した国分太一さん、劇団ひとりさん、ペナルティーのお二人、それから久保田祐佳アナ、みんな爽やかで、礼儀正しくて、素敵な人たちだったなあ