「人間ドック」を経験

2008年6月「e-resident」掲載~人間ドック」を経験

―覆面調査?

今日、生まれて初めて「人間ドック」を経験してきました。

大学の助手になったのが11年前、それ以降はずーっと正式な職員だったのですから、法律的には定期的な健康診断を受けなければいけなかったはずですが、大学病院時代はほとんど健康診断を受けたことがありませんでした。3年前、現在の勤務地である国立スポーツ科学センターに移ってからは、「必ず健康診断を受けなさい」というお達しがあり、今年は、「健康診断の代わりに人間ドックを受診した場合でも、職場から2万円近い補助が出る」、ということを初めて知り、「それじゃあどんなものか一度受けてみよう」と人間ドックの申し込みをしたのでした。

ちょうど先週、札幌で日本整形外科学会が開催され、そのシンポジウムで「トップアスリートに対する内科的メディカルチェック」と題して、「競技力を向上させるための魅力的なメディカルチェック、攻めのメディカルチェック」という話をしてきたばかりでした。ですから、人間ドックがどれくらい魅力的に行われるのか、そうじゃあないのか、ちょっと偵察してみよう、とも思いました。医者であることを隠して、ミシュランと同じ、いわゆる「覆面捜査」です。

駅から徒歩10分で到着したそこは、7階建てのビル全体が健診センターになっていました。10時からの予約だったのですが、15分前に到着し、受付でオプションの血液検査と胸部のCT検査を予約しました。ロッカールームで検査着に着替えた後、とても奇麗な、ホテルのような待合室でしばらく待っていると名前を呼ばれ、まず初めに血液検査、そして身長体重測定、体脂肪測定、心電図、呼吸機能検査と続きます。

待合室で待つ人たちも、平均年齢は45歳といったところでしょうか、病院とはまったく雰囲気が違います。

次に呼ばれたのが腹部超音波検査、私が行うような「三こすり半エコー」とは違い、じっくり時間をかけてやってくれました。ただ、あまり時間がかかるので、「何か悪いところでもあるのかなあ」とちょっと不安な気持ちにもなります。終了後に技師さんに、「何か問題ありますか?」と聞いたところ、「結果は後でドクターから説明があります」と当たり前の答え。「心配なものはないと思いますが詳しくはドクターに聞いてくださいね」くらいに言ってもらえれば、あまり不安にならないのになあ。まあ、患者さんの気持ちがよくわかります。

その次はドクターによる診察、あらかじめ記入した問診表を見ながら、先生が問診します。高脂血症のための継続的な運動療法を行っていますか?の問いに、「ハイ」と記入しておいたのですが、「3年前の健康診断で中性脂肪が高かったものですから、定期的に運動を行っています」と言うと、「それは医師の指示で運動療法を行っていますか。という意味なんですよねえ」といいながら、「ハイ」を消されてしまいました。うーん、おれの指示でやっているわけだから、医者の指示ということにならないのか?まあいいか。

最後に、噂のメタボ診察です。「そこに立っておなかを出してください」といわれ、巻き尺で腹囲を測ります。先生は、「85センチ」といったん言ったあと、「84.6センチですね」と言いなおしました。ご存じのとおり85センチ以上あるかないかがメタボリックシンドロームの運命の分かれ道。85センチ以上だといろいろ説明しなきゃいけないからめんどうくさいと思ったのか、それとも私にメタボの烙印を押すのが申し訳ないと思ったのか、そこら辺は定かではありませんが、何とか私はメタボリックシンドロームからまぬがれたのでした

その後は、聴力検査、視力検査、眼底検査と続き、レントゲン室に移動して胸部CT検査と上部消化管検査(バリウム検査)を行いました。げっぷを我慢しながら頭が上がったり下がったり、ぐるぐる回されて、「これなら僕がやる内視鏡検査の方がよっぽど楽だな」と感じましたが、「バリウム検査に命をかけてる」といった感じの技師さんで、とても一生懸命やってくれました。

これですべて終了です。時計を見るとまだ11時20分、なんと1時間20分ですべての検査が終わってしまいました。1日がかりだと思っていたのでびっくり。食事を済ませて12時30分から結果説明がありました。一部の血液検査と胸部CT以外は、すべて結果がもう出ていて、これもまたびっくり。腹囲はちゃんと84.6センチと記載され、メタボリックシンドロームは非該当となってました。腹囲をおまけしてくれた先生は言いました。

「大きな問題はなさそうですねえ。ただ、肝臓に血管腫がありました。まあこれは血の塊みたいなもんですから心配ありません(ふーん、そう説明するのか)。念のため6ヶ月後に再検査してくださいね。それでは今日はお疲れ様でした」

着替えを済ませて、料金を払いました。そういえば、係りの人は私のことを「お客様」と呼んでたなあ。たしかに、患者ではないからなあ。でも、何となく違和感もある。まあいいか。

―覆面調査報告

「覆面捜査」の結果わかったのは、病気ではないと思っている人間にとっては、病気を発見してもらうことよりも、短時間で、不快感なく終了することが、「魅力ある人間ドック」なのだと感じた事でした。バリウム検査だって、見落としなくダブルチェックしていたら2時間で結果まで出るわけがないとも思うけれど、「異常なくてよかった」と思いたい人間にとってはそんなこと許せるような気もする。

まあいずれにせよ、「大した問題はなさそうですねえ」と言われ、なんだかとてもいい気分になって、帰り道、通りすがりのとんかつ屋で「カツカレーの大盛り」を注文してしまったのでした。

間違いなく腹囲が2センチ増えた私は、それでも、来年の健診までには腹囲が85センチ以内になるよう努力しようとも思ったのですから、85センチという数字も数値目標としては悪くはないなあ、と感じたのでした。