「バック・ソフトボール」は終わらない

2010年1月「e-resident」掲載~マレーシア、クアラルンプール・「第4回アジア女子ジュニアソフトボール選手権大会(U-19)」

昨年末はマレーシアのクアラルンプールに出張していました。12月13日から16日まで「第4回アジア女子ジュニアソフトボール選手権大会(U-19)」が行われました。2011年には南アフリカでジュニアの世界選手権が行われるので、そのアジア予選を兼ねた大会です。今回出場したのは、日本、中国、台湾、韓国、シンガポール、インドネシア、タイ、インド、イランの9カ国。わが日本女子U-19チームは圧倒的な強さで優勝を飾り、世界選手権への出場を決めました。

上野由岐子投手の力投をはじめ、北京オリンピックで金メダルを取ったソフトボールチームの見事な戦いが昨日のことのように思い出されます。チームスポーツの活躍は間違いなく日本に元気を与えてくれました。その時すでにオリンピックの正式競技から外れることが決まっていたソフトボールは、2016年のオリンピックで再び正式種目として復活させるためのアピール活動、「バック・ソフトボール」を行ってきました。

しかし、昨年10月の国際オリンピック委員会(IOC)総会では、2016年のオリンピック開催地(ブラジル・リオデジャネイロ)とともに、7人制ラグビーとゴルフが正式競技として採用されることが決定し、残念ながらソフトボール復活の夢はかないませんでした。ソフトボールがオリンピック種目から外された理由として、世界的に普及していないことが挙げられました。今回のマレーシアでは「何とか世界にソフトボールを普及させたい、あきらめずにオリンピック種目として復活させたい」というソフトボール関係者の強い思いを感じたのです。

―ソフトボール場がない!

「マレーシアにソフトボールができる場所なんてあったっけ?」――。出発前、4年前までクアラルンプールで仕事をしていた同僚の一言が気になっていました。マレーシアに到着した翌日、練習のために試合会場を訪れたわれわれは呆然としました。

グラウンドがないのです。ただの原っぱ。やはりマレーシアには野球場やソフトボール場はありませんでした。雑草を刈ったばかりと思われる原っぱのくぼんだ部分は砂で埋められており、まるでゴルフ場のバンカーのようです。周囲には、これから外野フェンスを作るための杭が扇形に打ち込まれています。

「どんな環境、どんな状況に置かれても、われわれはしっかりと日本のソフトボールをするだけだ」と苦笑いしながら檄を飛ばす渡辺和久監督。楽しいことが起こりそうな予感もしてきました。

その後、バックネットを設置したりフェンスを張ったりと、急造グラウンド作りが始まり、何とかソフトボール球場らしきものが出来上がりました。大会前日の夕方でした。

―試合前に起きた珍事件

日本の初戦の相手はインドでした。試合がまさに始まろうとしたとき、主審とインドのキャッチャー、コーチが日本のベンチ前にやってきました。「キャッチャーのヘルメットと、のどあてを貸してくれないか」というのです。主審はキャッチャーマスクだけでは危ないから試合を開始できないと言い、インドのコーチは、インドでは使ったことがないから持ってないよというわけです。用具を貸してあげたいところですが、ブルペン練習でも使う必要があるので、結局、インドチームは試合のない中国チームから用具を借りて、ようやく試合が始まりました。

そんな具合ですから力の差は歴然です。20対0の3回コールドで試合は終わりました。そんなインドチームでしたが、逆にイランチームを相手に27対0のコールド勝ちを収めました。聞くところによると、イランチームは大会10日前に結成されたのだそう。やはり、ソフトボールが世界に普及しているとは言い難い状況です。

―「バック・ソフトボール」は続く

初めて体験する、和気あいあいとした国際試合でしたが、そんな中でも日本チームは全力で戦いました。今大会を通じて、試合に勝つだけでなく、アジアの中で果たすべき日本の役割を皆が感じ始めました。

試合の合間には、地元のマラヤ大学のソフトボール部に向けて急造ソフトボール教室を開きました。選手たちは応援に駆けつけた地元の小学生たちと交流し、「こんなに速い球を投げるの!?」と驚かせるなど、彼らにソフトボールの魅力を伝えました。

大会最終日の夜にはレセプションが開かれ、各チームが壇上で踊りや歌を披露し交流を深めました。「アジアでもさらにソフトボールを普及させていこう」と、日本からイラン、インド、タイの3カ国にボールが寄贈されました。なにしろこの3チームは公式球を持っていなかったのですから。

大会中に出された国際ソフトボール連盟のリリースでは、ジュニアのアジア選手権に初めてイランが参加したことや、ソフトボール場がなくても大会を開催できたことを賞賛していました。どこでも誰でもできるスポーツとして普及させたいという強い思いが伝わってきました。「バック・ソフトボール」は、単にオリンピック種目として復活させることだけが目的ではないのです。

まだまだ「バック・ソフトボール」は続くぞ! 北京オリンピックの金メダルが過去の記憶になりつつあるのはさびしいです。ぜひ、読者の皆さんもソフトボールの試合に足を運んでください。スピード感あふれるソフトボールに魅了されて、きっと応援したくなりますよ。