2008年12月「e-resident」掲載~高崎・「二宮清純のぜんそく人間学」対談
―二宮清純のぜんそく人間学
先日、「二宮清純のぜんそく人間学」の対談で、高崎へ行ってきました。
この対談シリーズは、スポーツジャーナリストの二宮清純さんがナビゲーターを務め、喘息とかかわりの深い著名人をゲストに招いて、喘息について語り合うものです。
今回のゲストは、ソフトボールの金メダリスト、峰幸代選手です。峰選手はあの鉄腕上野投手の球を受け続けたキャッチャーですが、小さいころから喘息があり、北京オリンピックでも吸入による管理をつづけながらコンディションを維持して、見事金メダル獲得に貢献。ドーピング関係の申請のことなどもあり、JISSで定期的な検査をしながら経過を見ていました。私も、峰選手の主治医として、また、スポーツ医学の専門家として、対談に招かれたのです。
二宮さんも幼い頃から喘息で、長年つらい症状に悩まされてきたようです。そんな二宮さんが、スポーツ選手や各界の著名人の中に喘息をコントロールして活躍されている方が多いことを知り、喘息をいかに乗り越えるかというテーマで対談することによって、患者さんを勇気づけたいという熱意からこのシリーズが始まりました。かつては、「喘息であること」を隠す選手も多かったのですが、最近は、喘息であることを公表し、「喘息でも一流選手になれる」ことを示すことによって、「喘息で苦しんでいる子供たちを勇気づけよう」「喘息の正しい診断・治療のために一肌脱ごう」と考えてくれる選手たちが増えてきました。
約束のホテルで二宮さんと二人で待っていると、峰選手が登場しました。
「おー、ミネコ、元気だったかー」
「なんだー、先生も来てたんですかー」
うっかりして、峰選手に前もって連絡するのを忘れていました。オリンピック後は取材も殺到して、だいぶ取材慣れしてきたという彼女でしたが、今回は「喘息」の話題、それなりに緊張していたようです。私の顔を見て、だいぶ表情が緩みました。
さっそく対談が始まりました。
子供のころの峰選手の喘息にまつわるエピソードや、喘息を克服するための様々な工夫、さらにはオリンピックの決勝戦のことなどに話題が及びました。
―香水の匂い
そして、喘息の人間にとってたばこの煙がとても嫌だという話になった後、二宮さんが言いました。
「私なんかは香水のにおいもダメなんですよね。きれいな女性たちがいる店に行っても、香水がきついとそれだけで息苦しくなります」
「そうそう」と峰選手。
そこで思わず私は言ってしまったのです。
「僕は、女性の香水のにおい、大好きです」
本当にどういうわけか女性の香水のにおいが好きなのです。子供のころから、デパートの1階の化粧品売り場の中を通るのが好きでした。学生時代、ふらっと入ったキャバレーの女の子の香りが上着についていて、店を出た後も、その香りを感じただけで幸せな気分になりました。
「香水大好き」という私の言葉にすかさず二宮さんが反応しました。
「今年見た映画でとてもいい映画がありましたよ。パフュームって題名だったっけなあ。ヨーロッパの映画で、最高の香水を作るために女性を殺めてしまう調香師の話で、でも最後はその最高な香水の力にみんなひれ伏してしまうんですよ」
さっそく、DVD借りてきて観ました、「パヒューム」。
うーん、何ともインパクトのある映画でした。いい臭いだけでなく、悪臭やいろいろなにおいが画面からこぼれてきました。普段、「わかりやすい昔の任侠映画」を浅草の名画座でしか観ることのない私にとっては、ここでこの映画を解説するのはとても難しい。でも、香水にひれ伏す気持ちはわからないわけではないなあ、などと感じたのでした。
スポーツでもいろいろなにおいがあります。レスリングの「マットのにおい」、体操の「タンマのにおい」、水泳の「塩素のにおい」などなど。そんな選手たちのにおいは、診察室でも感じることがありますが、いわゆる「汗臭い」選手はほとんどお目にかかりません。みんな練習の後はすぐにシャワー浴びて清潔にしています。
医学的にはもちろんとてもいいことなのだけれど、世の中最近は、「においを消すこと」にみんな一生懸命。子供の頃によく感じた、あの「病院のにおい」も最近はなくなったなあ。喘息の人は香水のにおいも嫌だと思うわけだし、「無臭であること」を不快に思う人はほとんどいないのだろうから、これからもどんどん無臭時代になってゆくのでしょうね。
でも、それって、どんどん個性がなくなってゆくこと?などと感じながら、「そういえば最近は女性の香水の匂いもご無沙汰だなあ」と、しみじみしてしまったのでした。