猛暑の連続だった夏が過ぎ、地元の長野も、東京も、秋の長雨が続いています。
ところで、みなさんは9月9日が何の日か知っていますか?
答えは「救急の日」です。「救急の日」は、救急業務や救急医療に対して、理解と認識を深め、意識を高めることを目的に、昭和57年に定められました。
それから毎年9月9日を「救急の日」とし、この日を含む1週間を「救急医療週間」(今年は9月6日~12日)として、全国各地において応急手当の講習会を中心とした救急に関する様々な行事が実施されています。
突然倒れた、意識がなくなったなど、救急が必要となる出来事はどこでも起こり得ます。そして誰でもその場に遭遇する可能性があります。ですから、誰もが最低限の救急医療の知識を持っていることが大事です。
私はスポーツドクターとして海外へ行く機会が多くありました。その中で、飛行機内に「ドクターはいませんか」とアナウンスが流れることがよくありました。行きの飛行機で対応したら、帰りの飛行機でまた、という経験もあります。
大事なのは勇気を持ち、まずはその人のそばへ行くことです。そして大きな声で周りの人を呼ぶ。人が集まれば少し勇気が出てきますし、もしかしたらその中に医師がいるかもしれません。
救急車を呼んで待っている間に、息をしているか、心臓は動いているか、意識があるか、などを確認してください。息が止まっていたら人工呼吸、心臓が止まっていたら心臓マッサージというように、状況に応じた処置を行います。しかし、何の知識もなければ適切な状況判断は難しいですよね。
今でも思い出す印象的な事件があります。
1986年にアメリカ出身のフローラ・ハイマンというバレーボール選手が、日本リーグでの試合中にコートで倒れてそのまま亡くなってしまいました。ハイマン選手はスター選手だったので、試合の一部始終がアメリカでも放送されていました。それを見たアメリカのドクターから、日本のスポーツ医学会に手紙が送られてきたのです。そこには「ハイマン選手が倒れた時、救急車に運ばれるまで誰も救急処置、心肺蘇生をしていなかったが、これが日本の現状なのか」と書かれていました。
誰かが倒れた時、現場にいる人に何ができるかで生死が決まることもあります。それ以来、私たちはスポーツの現場で救急医療の講習と啓発活動を一生懸命やってきました。いざという時、勇気を持って処置するためには、最低限の知識が必要です。スポーツの現場だけではなく、誰もが知っておかなければならないことだと思います。
例えばAED(自動体外式除細動器)については、みなさんはどれぐらいご存知ですか?心臓の病気が原因で倒れた場合、特に多いのが心室細動(心臓のけいれん)によるものです。この心室細動が起こると、脳や腎臓、肝臓など重要な臓器に血液が行かなくなり、やがて心臓が完全に停止してしまう、とても危険な状態です。時間が経つほど救命できる確率が減るので、素早い対応が必要です。
AEDは電気ショックでこのけいれんを止める機械です。心臓の診断から治療までコンピューターが自動解析してくれるので、専門的な知識がなくても使えます。機械自身が使い方を音声で案内するので、それに従えばいいのです。機械が傷病者に電気ショックを与えた方がいいと判断すれば、「ボタンを押してください」と指示が出ます。その必要がなければ機械は作動しません。ですから、AEDを使って病状が悪化することはないのです。
しかし、そのことを知らないとなかなかAEDの蓋を開ける勇気が出ませんよね。少しの知識と少しの勇気で救える命があるので、いざという時はAEDを 積極的に使ってほしいと思います。
医師をしていると、医学だけでは解決できないことがあると実感します。医学はどんどん進歩していますが、それを生かせる社会の仕組みがなければならないからです。私は最先端医学を研究していたのですが、救急車が来ない、救急車が病院をたらい回しにされるなどの問題が話題になりました。その時、医療技術以前の理由で命を救えない場面がたくさんあると実感し、政治家を目指したのです。
先ほどAEDは素晴らしい機械だとお話しました。最近では、駅や公共施設などあちこちに設置されていますが、誰もが使える仕組みがなければ意味がありません。早く救急車が到着する仕組み、現場に遭遇した人が最低限の救急医療の知識とそれを使う勇気を持っている仕組み・・・。
学校で基礎知識を子供たちにも教えれば、もっと多くの命が助かるかもしれない。私は政治家であり医師でもありますが、どちらも目指すところは同じです。これからも、みんなが元気で幸せに暮らせる社会的な仕組みをつくれるよう、誠実に、一所懸命努力していこうと思います。